明顕山 祐天寺

「ふみまよう 心のやみを てらしませ わしのみ山に のぼるつきかげ」

 

このお歌は「善光寺の御詠歌」と名付けられ、浄土宗の大本山善光寺大本願の第百十九世玉誉上人大宮智栄尼公大僧正御作のものです。

浄土宗には総本山の知恩院と七大本山があります。その七大本山の内の一カ寺が長野県にあります大本山善光寺大本願です。この大本願の第百十九世ご法主台下であられます玉誉上人は、全国を巡錫(じゅんしゃく)(教化などのために各地を巡り歩くこと)し、積極的に人のため世のために生涯を捧げられた上人です。

 

歌の中にあります「わしのみ山(鷲の御山)」とは、インドにある霊(りょう)鷲山(じゅせん)のことです。霊鷲山はお釈迦様が尊いお念仏の御(み)教(おし)えをお説きになられた場所であります。このお歌は、お念仏の声のするところは、どこでも仏様のお出ましをえて、お導きをいただく所であるという意味で、大本願から見えるアルプスの山々を霊鷲山に見立てられております。

「闇路に迷う私を、あの山にのぼる月の光のように、阿弥陀如来様のお慈悲の光で心の中まで明るく照らしお導き下さいませ。」との想いを詠われておられます。

 

 

私たち人間は「煩悩(ぼんのう)」をたくさん持ち合わせています。この煩悩とは、身心をわずらい乱し、苦しみを引き起こす原因となるものです。代表的なものには三毒といわれている「貪(とん)(むさぼり、必要以上に求める心)・瞋(じん)(思い通りにならないことへの怒りの心)・痴(ち)(ものごとの道理や心理を分かっていない無知な心)」というものがあります。私たちは、そのような心を持ち合わせているがゆえに悩みが生まれます。その悩みから次の悩みを生み、常に悩み苦しみ続けてしまうのです。そして、そのような行いや思いを持つことは仏教における大きな罪でもあります。「煩悩」によって心を乱し、正しい判断や行いを妨げてしまうからです。この罪を犯し続ける限り、私たちは悩み苦しみの世界への生死の繰り返し(輪廻(りんね))から逃れることができないのです。まさに「闇の迷路」です。

この「煩悩」を消滅させ、苦しみから超越することが仏教の目的であります。しかし「煩悩が原因なら、無くしてしまえば良いではないか」と思ったところで、どうしても離れられないのが現実ではないでしょうか。それは、たとえ行動に起こさなくても、自然と思ってしまうこと、またそんな自分自身に気付けないことも一つの罪となってしまうからです。

 

では、「煩悩」をたくさん持ち合わせ、自ら断つことのできない私たちには、闇の迷路から抜け出すことができないのでしょうか。その道をお示しくださったのが、阿弥陀如来様です。

阿弥陀如来様は、私たちのような者でも生まれることのできる極楽浄土という清浄な国を創ってくださり、そのままの私たちを受け入れてくださるのです。そして、極楽浄土へ生まれさせていただく(往生(おうじょう))ための方法として、だれでも行うことのできる南無阿弥陀仏とお称えする「お念仏」を定めてくださったのです。「阿弥陀如来様、どうかお救い下さい」と願ってお念仏をお称えすることで、私たちのようないたらぬ者をもお救い下さるのです。

 

このお念仏の御教えを私たちにお示しくださったのが浄土宗の宗祖、法然上人であります。心乱れる煩悩を持ち合わせている私たちですが、そんな私たちが心を乱さないようにすることの難しさを法然上人は次のように申されております。

 

ある僧侶が法然上人に問いました。「お念仏をお称えして極楽浄土に往生させていただくことが輪廻の苦しみから逃れることだとわかっています。しかし、せっかくお念仏をお称えするときに、心がちりぢりになって迷いの心を起こすのですが、どうしたら良いのでしょうか」

法然上人は「迷いという迷いをすべて持ち合わせた愚かな我々に、どうして迷いの心を払い除けることができましょうか。たとえ心はちりぢりに乱れ、迷い心が張り合うように起こったとしても、口にお念仏をお称えすれば、阿弥陀如来様のご慈悲の光に助けられて、極楽浄土へ往生させていただけるのです」と。

その者が帰られたあと、法然上人は「迷い心はだれでも起こすことです。それを起こさないで心を落ち着かせてお念仏をお称えしようと思うのは、生まれつき備えている目や鼻を取り払ってお念仏をしようと思うのと同じこと。たくさんあることですよ。」と。

自分自身で心を乱さないようにし、煩悩を無くさなければならないとしたら、私には絶望しか残りません。

 

しかし、阿弥陀如来様は、自らの行いで悩みを断つことができないような者であっても救い取れるよう、だれもが行うことができる修行で極楽浄土に往生できるように定めてくださったのです。その修行が南無阿弥陀仏とお称えする「お念仏」なのです。

 

こんな私たちであっても見捨てず、救い取って下さる阿弥陀如来様のご慈悲の光に照らされお導きいただけるよう、共にお念仏をお称えする生活を送って参りましょう。

 

12月8日はお念仏の御教えをお説きくださいましたお釈迦様が、お悟りを開かれた日(成道)で、14時からそれを讃える成道会法要を行います。ご都合がよろしければ感染症予防をされたうえで、どうぞご参加ください。

 

合掌

法務部 佐藤

TOP