明顕山 祐天寺

「打つ人も打たれる人ももろともにただ一時の夢の戯れ」

 

ある時、夢窓国師という臨済宗の僧侶が弟子を連れて天龍川を渡るために舟に乗ったところ、酒に酔った武士が乗り込んできて騒ぎ始めました。他の乗客も大変迷惑そうにしていたが怖くて注意することが出来ずに我慢しています。そこで夢窓国師が「どうか少し静かにして下さい」とお願いすると「この坊主が!わしに説教するつもりか!」と、武士は怒って国師の眉間に鉄扇を打ち付け、国師の額からは血が垂れました。

これを見た弟子達は怒り、この弟子達も出家する前は武士で腕に覚えのある者ばかりだったので「お師匠様に何事か!成敗してくれる!」と息巻いていたところ「お前達は口先だけの忍耐であってはならぬ。この程度で怒るようでは仏道修行はつとまらぬぞ!」と弟子達を戒められ「打つ人も打たれる人ももろともにただ一時の夢の戯れ」と歌われた。

傷つける人、傷つけられる人、勝った負けた、やったやられた、そんなことを繰り返している内にお互いの儚い人生はあっという間に終わってしまう。ほんの一瞬の人生を怒りにまかせて終わっては何のための人生かと国師は戒められたのです。

浄土宗を開かれた法然上人は幼い頃、家に夜襲をかけられ、その時の怪我が原因で父親を亡くされております。法然上人の家は武士の家系であり、その時代の武士は、やられたらやり返すというのが当たり前の世の中でした。しかし法然上人の父親は「敵を恨んで仇討ちをしていけない。さもなければ争いは何代にも渡って続くであろう。敵を恨むのではなく出家して私の供養をしてくれ」と遺言を残されました。武士の息子である法然上人はおそらく悔しい思いをぐっと抑えて出家を決意されたのだと思います。

毎日生きていると腹が立つことは幾度となくありますが、その度に怒ってイライラして自身の大事な時間を費やすのは勿体ないことです、もっと大事なことに時間とエネルギーを使って日々生活していきましょう。

 

合掌

法務部 玉置大祐

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