『目標達成のために』
日向 哲空
「一丈の堀を越えんと思はん人は、一丈五尺を越えんと励むべし」(常に仰せられける御詞)
法然上人のお言葉のなかでも特に有名なもののひとつであります。
学校や会社などのスピーチでも使われることがあるそうなので、ご存じの方も多いかもし
れませんね。
一尺は30㎝ですので一丈は3mほどです。
一丈五尺ですと、およそ4,5mということになります。
つまり「3mの幅のある堀を飛び越えようと思う人は、4,5mを飛び越えようと励まなければならない」ということになります。
幅が3mある堀を越えるのに、ちょうど3mを飛び越えることを目標としたのでは心もとないわけであります。しかしながら、常日頃より4,5mの幅を飛び越えることを目標として励んでいれば、たとえその時、十分に実力を発揮できなかったとしても、3mの堀は優に超えることが出来る、ということであります。
私たちは、それぞれに大なり小なり目標を持って、日々を生きているといっても間違いはないと思います。
たとえば受験生は志望校への入学を目標とし勉学に励みます。
その志望校に入るためには、入試で70点を取ることが条件だとします。
受験生は入試の日まで70点を取るために、その学校の過去の問題を繰り返し問くことになります。いよいよ試験当日となった時に、それまで過去問題でちょうど70点を取れるようになった人と、90点、100点を取れるようになった人ではどちらが、志望校への入学という目標達成に近いでしょうか。
当然90点、100点取れるように準備を進めていた人の方が可能性は高いですね。
ちょうど70点を取れるように準備した人は、その日の体調などの条件で実力が出せなかった場合、危ういです。
逆に、90点、100点を取れるように準備した人は、たとえ実力が出せなかったとしても、70点を取ることが出来るわけであります。
「棒ほど願って針ほど叶う」という言葉があります。
人の望みや願いはなかなか達成されない、という意味の言葉です。
そうなのであれば、何かを成し遂げようとするとき、目指す目標より更に高いところに目標を定め励むことが、その目標達成のためには重要なこととなるわけであります。
法然上人が私どもにお示しくださったお念仏も同じことです。
私たち、念仏信者の目指す何よりの目標はただひとつ
「この私の、この命おわる、その時に、阿弥陀さまのお迎えをいただき、西方極楽浄土へ生
まれさせていただく」このことであります。
その為にも今、私がお称えする、この一声一声のお念仏に「必ず往生させていただくのだ」という固い信心を乗せて、お念仏の実践に勤めることが大切となるのです。
よくよく考えてみますと、この世の中は、いつ何が起こるか分からない不確かなものであります。しかしながら、私たちには、ただ今こうしていただいたお念仏のご縁がございます。
「南無阿弥陀仏」のお念仏を大切に、ただ真っすぐにお浄土を目指し、お念仏とともに歩んで参りましょう。
合掌