明顕山 祐天寺

うつし世の 月を真上の 踊かな

 俳人 松本たかし御作

 

この俳句は昭和期に活躍された東京出身の俳人、松本たかし(本名・松本孝)さんの詠まれた俳句です。「うつし世」とは「現世」、「踊」とは「盆踊り」のことを指しているそうです。漢字に直すとその場景が目に浮かびますね。

「盆踊り」は、今では夏祭りの一つとして多くの人が集まって楽しむ場という印象がありますが、実は「お盆の時期に踊るおどり」のことで、本来は先祖霊をはじめとする死者の霊を歓待し送るという目的で踊られるもので、仏教行事の一つです。お盆の時期にこの世に戻られるご先祖様に向けて、その歓びを表して踊っておもてなしをし、そしてお送りするのです。

私はこの詩を、月をご先祖様のいらっしゃるところ、お浄土になぞらえて、「この世に生きる私たちがお盆に還ってこられたご先祖様におもてなしの心で踊りながら見送っている姿」と「ご先祖様がお浄土に戻られながら、こちらの踊っているようすを眺めて喜んでいる姿」と両方の立場から詠まれているように感じました。

 

ことわざに「袖振り合うも多生の縁」という言葉があります。仏教では前世からの行いが現世に影響し、現世の行いが後世に影響すると考えられております。「今日ここで袖が触れあう程度のちょっとした出会いであっても、多生(前世)からの縁によって導かれたものである。(ですから、大切にしましょう)」ということです。

 

夏はお祭りなど多くの人が集まるイベントがたくさんあります。少しの関わりでも前世からの大切な縁です。どうぞ集まられた皆様がその縁によって導かれた大切な仲間同士と思って楽しんで頂けたらと思います。また、各地の盆踊りに出かける方はぜひ、先立たれた亡き方々へのおもてなしの心も持ち物の一つに加えて参加して下さい。

合掌

祐天寺法務部 佐藤 隆常

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