明顕山 祐天寺



「人のお世話にならぬよう、人のお世話をするよう、そして報いを求めぬよう」という言葉、これは1925年、ボーイスカウト日本連盟の初代総長である後藤新平氏が著書『自(じ)治(ち)三(さん)訣(けつ) 處世の心得』で発表されたものです。

 

後藤新平氏(1857年-1929年)は、台湾総監督府民政長官、南満州鉄道初代総監、逓信大臣、外務大臣を経て、東京市長を歴任された方であり、日本のボーイスカウト発展に多大の貢献をされました。

 

後藤総長は、「自治」とは、自分で自分の身を治めるということで、この精神がしっかりとしていないと立派に自立していくことができない。“自治は生活の根本”であり、“活力の源泉”である。自治生活の極意はこの三か条に尽きている、と述べられています。

 

つまり、「自治を行う為の三訣」ということです。「訣」とは「奥義、秘訣」などの意味があり、これを極めていく、真に近づいていくということで、「自治を行うため、一訣、二訣、三訣と極めていく」ということなのです。

 

まだ既成の社会通念や価値観に染まりきっていない少年たちに「自治」の重要さを説き、自治の観念を芽生えさせるためにこの言葉をいわれたのです。

 

私は幼少の頃からボーイスカウト活動に参加しておりますが、ボーイ隊(小学生5年生から中学3年生まで)に上進する際に「スカウトのちかい」と「スカウトのおきて」の実行を誓いました。

 

ちかいの一つに「いつも他の人々をたすけます」という実践がありますが、後藤総長の自治三訣に述べられている「人のお世話をするよう」の考え方と同じなのです。

 

「人のお世話をするよう」とは、「社会奉仕」ということです。

 

後藤総長はこの意味を次のように述べられています。

 

- 人のお世話をするのは、余力が人に及ぶもので、世のため人のための奉仕(つとめ)である。

- 自分だけが都合がよければ人は構わぬといった利己的の態度は許されない、自分と他人とが互いに相了解し相融和し、相互の利益を考慮して円満なる調和に努力してゆくのが義務である。

 

後藤総長はまた、「進んで社会のために」と述べ、さらに「奉仕は人間最高の義務である」としています。

- 今一歩進んでいえば、奉仕とは信と愛から出発したものでなければならなぬ。

- 奉仕に報酬はなく、それを自ら進んで行うところに信と愛の光が輝いて見える。

 

これが「社会を離れての個人はなく、また、個人を離れての社会もない」という考えの後藤総長がいいたかった「人のお世話をするよう」の意味、つまり、なぜ“社会奉仕”なのかということです。

 

とかく私たちは自己中心的な生活をおくりがちでありますが、後藤総長の述べられた、「人の為に、社会の為に」ということを実践できるよう日々過ごしたいものであります。

 

祐天寺法務部 脇川 公暢

参考文献 ボーイスカウト機関誌「スカウティング」より

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