明顕山 祐天寺

公開日:2024年1月4日  

龍』

新年あけましておめでとうございます。2024年、令和6年になりました。早いもので平成が終わり令和になって6年が経つのですね。時の流れというものは本当に早いものです。

さて本年は辰年でございますが、辰とは龍のことを指します。中国では、龍は麒麟(きりん)、鳳凰(ほうおう)、霊(れい)亀(き)(想像上のカメ)とならんで、四種の霊獣の一つで、四種の中で最も力がある動物とされています。「古代の中国人は龍を想像上の生き物ではなく実在する動物と考え、身近な動物としてとらえていたから十二支に入ったのではないか」といった干支にまつわる説もあるようです。①

仏教においても龍はたびたび説話のなかに登場してまいります。お釈迦様がお生まれになった時に、天上の龍がその生誕を祝福するために甘露(甘い雨)を降らせたと言われております。また『法華経』では仏法を守護する善神として「八大龍王」が説かれております。

また、浄土宗の開祖である法然上人に関する説話のなかでも龍に関係するお話がございます。私の故郷である静岡県西部の遠州地方では「遠州七不思議」の一つとして龍神伝説が伝わっております。静岡県御前崎市に「桜ヶ池(さくらがいけ)」という池があり、平安時代の昔に「皇円阿闍(こうえんあじゃ)梨(り)」という高僧が龍神に姿を変え池の中に入定されたと言い伝えられています。皇円阿闍梨は法然上人のお師匠様であり、学問に長ける偉大なお方でした。しかしながら、阿闍梨はいくら学問を修めても、厳しい修行をしても悟りを得ることが出来きません。このままでは死後、再び輪廻(りんね)転生(てんしょう)し、苦しみの世界に落ちてしまうと阿闍梨は感じていました。法然上人や皇円阿闍梨が生きている時代は、お釈迦様が亡くなってから、仏さまが一人もこの世にいない無仏の時代です。そのため阿闍梨は、自分を導いてくれる仏さまが現れるまで、すなわち56億年後に仏さまとして出現する弥勒菩薩(みろくぼさつ)がこの世にお出ましになるまで、龍神の姿になって待とうと考えたのです。阿闍梨は自分の死期を感じると、桜ヶ池の水を手にすくい、龍神に姿を変え池の中にて入定されたのです。

後に法然上人は阿闍梨のお話をお聞きになりこうおっしゃいました。「皇円さまほどのお方が、悟りを得ることの困難さを知り弥勒菩薩の登場を待とうとしたのは、お念仏の教えを知らなかったからです。私が皇円さまに阿弥陀様の極楽浄土に往生するためのお念仏の教えをお伝えしていれば、わざわざ龍神になり56億年という長い時をこの世で待たずとも阿弥陀様のお導きを得ることが出来たのに、たいへんお気の毒なことです」②

辰年は陽の気が動いて万物が振動するので、活力旺盛になって大きく成長し、形がととのう年だといわれています。そのため皆様の今年一年がより良い年になるだけでなく、お念仏の日暮らしがより一層進む一年になることを願っております。

合掌

法務部:黒澤崇弘

①「レファレンス協同データベース」

https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000101047

②浄土宗総合研究所編『現代語訳 法然上人行状絵図』328~329

なお、法然上人の諸伝記では、皇円阿闍梨は龍神ではなく大蛇に姿を変えたと記述されていますが、地元の伝承を優先し大蛇ではなく龍神と表記させていただきました。

 


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