明顕山 祐天寺

論説

祐天寺研究ノート30

祐天寺精史(二十五)

時の鐘仰せ付けられ候一件 1

祐天寺研究室 主任研究員 伊藤丈

元文3年(1738)8月18日、一位天英院さま御附の御用人、酒井安芸守殿、堀又十郎殿、小林新六郎殿3方から祐天寺祐海へ、次のような手紙が来ました。

「手紙を持って啓上致し候。しかれば先年、一位さまより鐘御寄進候ところ、こたび、時の鐘を昼夜12時にあい勤め候ように思召され候。御本丸へ仰せ上げられ、永々金子を下され候つもりに候間、御内意申し入れ候。右の御金は追って酒井安芸守が持参致すべく候間、かさねてさように御心得なさるべく候。この段、御内意を申し入れ置き候ようにと、秀小路殿が御申し候について、かくのごとく御座候。已上」

同月20日、一位さま御用人3方から、引き続き祐海へ次の手紙がありました。
「一位さまより、こたび、時の鐘をあい勤むべき由、仰せ付けられ候について、右御寄進の御金、明21日四時過ぎ、酒井安芸守がその寺へ持参致すべく候。右、御案内としてかくのごとく御座候。已上」

同月21日は晴天でした。朝の五時過ぎ、一位さまの御用人酒井安芸守殿が祐天寺へ入来されました。もっとも、御金を納めた御長持は、前もって御先番役人茎井繁八殿と大竹庄兵衛殿が侍4人そして持ち人14人とともにすでに祐天寺まで届けていて、その20人は玄関前で扣えていました。
祐海は酒井安芸守殿を玄関の式台まで出迎え、書院へ案内して酒井安芸守殿が着座されるのを待って、書院から退出しようと言葉を発しかけたとき、酒井安芸守殿は祐海へ、次のように御口達されました。

「先年、一位さまより当寺へ御寄進遊ばされ候釣鐘は、かねがね時の鐘としてあい勤め候よう思召し遊ばされたく、右の趣を御本丸へ仰せ上げられ候ところ、こたび、右思召しのとおり、一位さまより12時料の手当として、御寄進遊ばされ候ようにと、御金これを進ぜられ候について、永々、時の鐘あい勤め候よう仰せ付けられ、右御金これを下さる」

このように酒井安芸守殿が祐海へ仰せ渡されると、次の御書付を祐海へ示され、

「時の鐘の諸入用の書付を見合わせ候ところ、所々にて年中の入用に多少これある内、増上寺の切り通しの鐘1か年分、金2拾4両余にてあい済み候分に相応するについて、左のとおりに致す。
金2百両 永々12時鐘料
金2拾両 別段、当年分の入用
右合して金2百2拾両これを下され候事」

と読み上げられ、右の御書付さらに御長持をその書院にて祐海へ引き渡されました。祐海は慇懃にそれを受けて御礼申し上げました。
そののち、祐海は用意して整えていた、吸物、酒、前段の蕎麦切り、本段の正味5菜の膳を寺僧に命じて書院へ運ばせ、酒井安芸守殿へ出しました。

玄関前で扣えていた、御先番の役人茎井繁八殿と大竹庄兵衛殿、加えて侍4人と持ち人14人へも、支度していた食事を出しました。
八時過ぎ、酒井安芸守殿が帰る際、祐海が玄関の式台まで見送り、寺僧の祐益、祐達、祐説、担英、潮円などは、玄関の下座敷前あるいは表門まで見送り申し上げました。
酒井安芸守殿が帰られる折、祐海は御書付と御長持を確かに受領した旨の次の請書を酒井安芸守殿へ差し上げました。

「請け取り奉る金子の事
合して金2百2拾両
右は、先年、一位さまより御寄進遊ばされ候鐘にて、こたび時の鐘として、昼夜12時、永々あい勤め候ように思召遊ばされ候。右の段、御本丸へ仰せ上げられ候ところ、こたび一位さまより、御寄進遊ばされ候ようにと、公儀より御金進ぜられ候。これによりて、右の御金を下し置かれ、ありがたく頂戴仕り、慥に請け取り奉り候ところ実正なり。しかる上は、別紙御書付のとおり、利金を持って永々滞りなく、時の鐘あい勤め申すべく候。念のため仍って件のごとし」

そのとき、祐海は酒井安芸守殿へ「近日の内より時の鐘あい撞き候よう仕るべきや」と伺ったところ、酒井安芸守殿は「御上の思召しは来る十月、文昭院さま27回御忌の節より、あい始め候ようにと思召し候間、その旨あい心得申すべし」とお達しがありました。
同月22日、祐海は駕籠に乗り、一位さま御用人の酒井安芸守殿、堀又十郎殿、小林新六郎殿などへ御礼回りし、それから御老中西尾隠岐守殿、松前左近将監殿、寺社司の松平紀伊守殿、牧野越中守殿、大岡越前守殿へ廻駕して、いず方にも口上書を持参しました。口上書の文言は次のようでした。

「拙寺境内の釣鐘は、先年、文昭院さま御追福のため御寄進遊ばされ候ところ、今般、一位さまより昼夜12時あい撞き候ようにと、昨日、酒井安芸守殿が拙寺へ御越し、永々料金拝領仕り候。右、御礼として参上仕り候」
この日、祐海は帰寺してのち、一位さまへ昨日の御礼を、手紙で申し上げました。

「一筆申し上げまいらせ候。日増しに冷気に向かい候へども、まずまず一位さま御機嫌よくならせられ候御事、ありがたく御めでたく存じ上げまいらせ候。さては昨日、酒井安芸守殿が御越し、先年、御寄進の御釣鐘、永々、昼夜12時あい撞き候ように思召し候との御事にて、御書付のとおり、御金拝領仕候。存知がけなき御事、誠に、思召しありがたくかんじ入り奉り候。祐天遺跡を万代まで御かざり遊ばし候、御威光を蒙り奉り、ありがたく存じ奉り候。誠に、御厚恩申し上げ候ようも御座なく候。御序に宜しく御さた成し下され候よう、ひとえにひとえに、御頼み申し上げまいらせ候。めでたくかしく」

(つづく)

祐天ファミリー43号(H15-9-1)掲載

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