3月15日、映画『祐天上人記』が平町(福島県いわき市)世界館で封切られました。当初この映画は前年1月中旬に封切りの予定で製作が進められていましたが、時代考証やロケーション撮影時の天候不順などのさまざまな理由により、完成が延び延びになっていました(昭和10・11年「祐天寺」参照)。
この映画は、将来名僧となることを夢見て郷里をあとにした12歳の祐天上人が、成田不動尊の霊験によって智恵を授かり、ついに増上寺大僧正として万民に崇められるようになるまでの物語です。郷土色やリアリティを出すために祐天上人の郷里のほか、館林善導寺(群馬県館林市)や増上寺でも撮影が行われ、祐天上人が弘めたと伝わる「じゃんがら念仏踊り」も場面に盛り込まれました。
郷里の地元紙『新いわき』は、この映画を「サウンド版5巻で、増上寺の檀信徒も撮影に協力したほか、映画の中には門外不出とされる増上寺の宝物なども映し出されており、大変興味深い作品となっている」と報じました。
4月15日、井上勝雄(のちの祐天寺20世)が岩井智海浄土宗管長より、准輔教に叙せられました。
4月、祐天寺では大正大学の大島泰信教授らの斡旋により、宗門子弟の養育に充てるため、奨学金を給付することになりました。今年度は仏教学研究生の野々村公宣と宗教学科の北山弘明、横島雷音が受給生に選ばれ、この3人は祐天寺に随身して大正大学に通うことになりました。奨学金給付の試みは、浄土宗門内より非常に感謝され、その成果が期待されました。
5月9日、祐天寺日曜教園主催の花まつり児童大会が開催されました。当時は五本木(目黒区)にあった祐天寺幼稚園に、幼稚園と日曜教園の子どもたち総勢百数十人が集まり、祐天寺までお練り行列を行って、観衆を驚かせたということです。「祐天さまの歌」の斉唱や舞踊、観劇なども行われ、本大会は盛りだくさんの内容でした。
7月1日、極東キネマが製作した映画『怪談累ケ淵』が大阪芦辺劇場(大阪府中央区)にて公開されました。監督は小倉八郎、原作・脚本は板間清彦です。深見新左衛門を沢田敬之助、皆川宗悦を大幡一平、お久を五十鈴桂子、おしがを有賀鏡子が演じました。
10月1日から11月2日まで、観音霊場坂東三十三札所東京出開帳が行われました。坂東三十三札所とは、鎌倉時代の初め頃に成立した関東8か国の中で観音菩薩を安置する33か所の霊場のことです。
これらの霊山・霊地を巡拝するには時間や労力を要することから、坂東札所聯合会が主催者となり、東京市と東京横浜電鉄、京浜電気鉄道の後援を受け、東京の寺院を写し霊場として出開帳を行いました。祐天寺は第1番の杉本寺、第2番の岩殿寺、第3番の安養院の出開帳場所となり、期間中は大変な賑わいだったそうです。
この出開帳では観音讃仰会の会員募集も行われました。会員になると納経帳・坂東札所案内記・観音経のほか、東京市電と東横・京浜電鉄の巡拝乗車券の引換証が呈上され、さらに納経券の割引や先祖累代のご回向などの特典も受けられました。